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食品接触用PVCで可塑剤はなぜ移行する?DEHP・ATBC・TOTMの特徴と移行メカニズムを解説

PVC(ポリ塩化ビニル)は、柔軟性や加工性を設計しやすく、食品用ホース、チューブ、ガスケットなどに用いられています。一方、軟質PVCに使用される可塑剤は、材料性能だけでなく、食品への移行特性や規制適合性にも影響します。

本記事では、DEHP、ATBC、TOTMなどの代表的なPVC可塑剤の特徴と移行メカニズムを解説します。さらに、DEHPフリーPVCと可塑剤を使用しないTPEを含め、柔軟性、耐熱性、加工性、移行特性、規制適合性などの観点から、食品接触材料の選定ポイントを整理します。

この記事の要点

・PVCの可塑剤にはDEHP、ATBC、TOTMなどがあり、柔軟性、耐熱性、移行特性、規制適合性に違いがあります。
・可塑剤はPVCに化学的に固定されていないため、食品の種類や温度、接触時間などの条件によって食品へ移行する可能性があります。
・食品接触用途では、可塑剤の種類だけでなく、DEHPフリーPVCやTPEを含めて用途や要求性能に応じた材料選定が重要です。

PVCに可塑剤が必要な理由

PVC(ポリ塩化ビニル)は、大きく硬質PVCと軟質PVCに分けられます。
硬質PVCは比較的剛直で、配管材やシートなどに使用される一方、ホースやチューブのように柔軟性が求められる用途では軟質PVCが使用されます。

軟質PVCでは、可塑剤をPVCに配合することで柔軟性を付与します。可塑剤はPVC鎖の間に入り、分子鎖間の相互作用を緩和することで、PVCのガラス転移温度(Tg)を低下させます。その結果、硬質なPVCにやわらかさや曲げやすさを付与し、軟質PVCとして加工できるようになります。

可塑剤は、単にPVCを柔らかくするだけの成分ではありません。種類や添加量によって、混練・押出時の加工性、成形後の硬度、ブリード、臭気、長期使用時の物性変化にも影響します。そのため、食品接触用途では、必要な柔軟性だけでなく、どの可塑剤をどの配合で使用するかまで含めて検討する必要があります。

関連: 食品接触用PVCの規制対応、移行評価、用途別の選定ポイントは、「食品接触材料におけるPVCの評価・選定ポイント|規制対応・可塑剤・移行評価を解説」で詳しく解説しています。

食品接触用PVC可塑剤の選定ポイント

可塑剤を選定する際には、最終製品の硬度や柔軟性だけでなく、加工性、成形後の物性安定性、ブリードや臭気、食品への移行特性まで確認する必要があります。特に食品接触用途では、次の項目を総合的に評価します。

柔軟性

柔軟性は、可塑剤の最も基本的な役割です。ホースやチューブでは取り回しの良さや耐屈曲性に関わるため、必要な硬度やしなやかさを実現できるかが重要になります。また、可塑剤の種類や添加量によって得られる柔軟性は変化します。

耐熱性

食品接触用途では、高温充填、温水洗浄、CIP洗浄などの工程が行われる場合があります。耐熱性が不足すると、使用中に物性変化が起こりやすくなるため、使用温度条件に適した可塑剤を選定する必要があります。

移行しにくさ

可塑剤は、食品の種類、温度、接触時間によって食品側へ移行する可能性があります。特に油脂食品との接触、高温環境、長時間接触では、移行評価の重要性が高まります。低移行性を重視する場合には、可塑剤の分子量や化学構造、PVCとの相互作用、添加量を確認します。

PVCとの相互作用

PVCとの相互作用は、可塑剤の保持性や移行挙動に関係します。PVC中での保持性が低い場合、ブリード、析出、白化、硬度変化などにつながる可能性があります。可塑剤の種類だけでなく、安定剤やその他の添加剤を含む配合全体で評価することが重要です。

長期安定性

食品用ホースやガスケットでは、長期使用や繰り返し洗浄による硬度変化、揮散、ブリード、臭気、移行量の変化を考慮する必要があります。初期物性だけでなく、実際の使用条件を想定した経時評価が求められます。

規制適合性

食品接触用途では、性能だけでなく規制適合性も重要な評価項目です。日本のポジティブリスト制度、EU規則、FDA規制など、対象市場によって求められる要件は異なります。対象市場ごとに確認すべき成分や制限が異なるため、可塑剤選定では市場や用途を踏まえた適合性確認が欠かせません。

関連: 各国の規制比較と詳細は、「食品接触用途におけるPVC(ポリ塩化ビニル)の動向と代替樹脂」で解説しています。

代表的な可塑剤の特徴

可塑剤にはフタル酸系、クエン酸系、トリメリット酸系などさまざまな種類があり、用途や求められる性能に応じて使い分けられています。代表的な可塑剤として、DEHP、ATBC、TOTMがあります。それぞれ可塑化効率、柔軟性、耐熱性、移行特性、加工性などに違いがあり、用途によって向き不向きがあります。

DEHP(Di(2-ethylhexyl) phthalate)

DEHPは、代表的なフタル酸系可塑剤の一つです。可塑化効率に優れ、比較的少ない添加量でPVCに柔軟性を付与しやすいことから、長年にわたり幅広い用途で使用されてきました。

一方で、DEHPは食品接触用途や玩具用途などで規制対象となる場合があり、用途によっては使用制限が設けられています。そのため近年は、ATBCやTOTMなどの代替可塑剤を用いた設計が検討されるケースも増えています。

ATBC(Acetyl Tributyl Citrate)

ATBCはクエン酸系の非フタル酸可塑剤です。食品接触用途で検討されることが多く、透明性や低臭気性が求められる用途でも選択肢となります。

一方で、ATBCを用いた場合でも、使用条件によっては移行やブリードが発生する可能性があるため、対象食品、使用温度、製品寿命を踏まえた評価が必要です。

TOTM(Trioctyl Trimellitate)

TOTMは、トリメリット酸系可塑剤に分類される高分子量の可塑剤です。一般に、低移行性や耐熱性が求められる用途で検討されます。高温環境や長期使用を想定する設計では、有力な選択肢となる場合があります。

一方、高分子量であることから、可塑化効率や加工条件はDEHPと異なる場合があります。必要な柔軟性、成形性、耐熱性、移行特性のバランスを考慮して選定する必要があります。

何を重視するか

重要なのは、どの可塑剤が絶対的に優れているかではなく、用途ごとに何を優先するかです。
柔軟性、耐熱性、移行しにくさ、規制適合性によって適した可塑剤は変わります。また、可塑剤を変更することで一つの課題を改善できても、その他の特性とのバランスが変化することがあります。食品接触用途では、可塑剤の種類だけでなく、配合設計や使用条件を含めて評価することが重要です。

表1. 代表的なPVC可塑剤の特性

評価項目

DEHP

ATBC

TOTM

可塑化効率

高い

やや高い

中程度

柔軟性

高い

やや高い

中程度

耐熱性

中程度

中程度

高い

低移行性

低い

配合・条件による

高い

長期安定性

配合・条件による

配合・条件による

高い

加工性

高い

やや高い

中程度

食品接触用途での検討

用途・規制により制約あり

高い

やや高い

※一般的な相対傾向を示した比較であり、食品接触用途への適合性や特定製品の性能を保証するものではありません。実際の性能や移行量は、配合、添加量、成形条件、食品の種類、接触温度、接触時間、製品形状などによって異なります。

可塑剤の移行メカニズム

可塑剤はPVC鎖に化学的に固定されているわけではないため、使用条件によっては材料内部から移動し、食品や周辺環境に移行することがあります。移行は、材料内部での拡散、材料表面への移動、食品側への分配という過程で進行します。[1]

食品と接触した表面では可塑剤が食品側へ移行することで濃度が低下します。すると、その濃度差を埋めるように材料内部の可塑剤が表面側へ移動し、さらに食品へ移行します。この拡散と移行が繰り返されることで、可塑剤は徐々に食品側へ移行していきます。

図1. 可塑剤移行メカニズム

分子量とPVCとの相互作用が移行に与える影響

移行のしやすさは、主に可塑剤の分子量やPVCとの相互作用に影響されます。一般に、分子量が小さい可塑剤ほど材料中を移動しやすく、移行しやすくなる傾向があります。一方、分子量が大きい可塑剤は移動性が低く、材料中にとどまりやすくなります。ポリマー系可塑剤は低移行性を示すことが報告されています。 [1]

また、可塑剤の極性や化学構造も移行挙動に影響します。可塑剤の分子構造の違いによって移行量が変化し、PVCとの相互作用の違いが一因と考えられています。[1]
一般に、PVCとの相互作用が弱い可塑剤は材料中で保持されにくく、内部から表面への移動が起こりやすくなります。その結果、食品への移行量が増加したり、表面への析出(ブリード)が発生したりする可能性があります。

食品や使用条件による影響

食品の種類や使用条件も移行挙動に大きく影響します。特に油脂食品は、可塑剤との親和性が比較的高く、可塑剤が食品側へ溶解しやすい傾向があります。食品表面の可塑剤濃度が低下すると、その濃度差を埋めるように材料内部から表面への拡散が続くため、移行が進行しやすくなります。

実際にPVCフィルムを用いた研究では、酸性食品模擬液では可塑剤の移行がほとんど確認されなかった一方、脂肪性食品模擬液では可塑剤の損失率が75~90%に達するケースも報告されており、食品の種類によって移行挙動が大きく異なることが示されています。[1]

さらに、高温環境では分子運動が活発になり、可塑剤の拡散速度が高まるため、移行しやすくなる傾向があります。加えて、接触時間が長くなるほど移行は進行しやすくなります。実際、ガラス瓶用PVCガスケットの研究では、移行の多くは長期保管中に進行し、保存期間が移行量に大きく影響することが報告されています。[2]

そのため、食品接触用途では油脂含有量だけでなく、使用温度や接触時間も重要な評価条件となります。

移行評価で重要な考え方

つまり、移行は「可塑剤が悪いから起こる」のではなく、可塑剤の種類、材料設計、接触する食品、使用条件によって起こりやすさが変化する現象です。
また、可塑剤の種類によって移行量は異なりますが、移行現象そのものが完全になくなるわけではありません。ATBCを含む可塑剤でも油脂食品への移行が報告されており、個々の材料や条件に応じた評価が重要です。[2]

そのため、食品接触用途では可塑剤の種類だけでなく、接触する食品、使用温度、接触時間などを踏まえて移行評価を行うことが重要です。用途によっては、可塑剤の変更だけでなく、可塑剤を使用しない材料を含めて材料構成そのものを見直すことも選択肢となります。

食品接触用途における材料選定の考え方

食品接触用途の柔軟材料には、DEHPフリーPVC、TPE、シリコーン、TPUなど複数の選択肢があります。本記事では、軟質PVCの可塑剤選定と移行メカニズムに焦点を当て、DEHPフリーPVCとTPEを具体的な材料選定候補として取り上げます。

DEHPフリーPVC

DEHPフリーPVCは、DEHPを使用しないPVC配合です。PVCが持つ柔軟性、透明性、加工性、既存設備との親和性などを活かしながら、可塑剤の選択を見直す場合の候補となります。

ただし、DEHPフリーであることだけで食品接触用途への適合性が決まるわけではありません。使用する可塑剤、安定剤、滑剤、着色剤などを含む配合全体、最終製品の移行特性、食品、温度、接触時間、対象市場の規制を確認する必要があります。

TPE

TPE(熱可塑性エラストマー)は、材料自体が柔軟性を持つため、軟質PVCのように柔軟性付与を目的とした可塑剤を必要としない設計が可能です。可塑剤を使用しない材料構成を検討する場合や、材料設計を見直す場合に候補となります。

一方、TPEにもポリマー、オイル、安定剤、着色剤などが含まれる場合があります。食品接触用途では、配合成分、成形条件、最終製品の使用条件に応じた適合性確認が必要です。

まとめ

PVCでは、柔軟性を付与するために可塑剤が重要な役割を果たしています。一方で、可塑剤の種類によって柔軟性、耐熱性、加工性、移行特性、長期安定性、規制適合性は異なります。
可塑剤の移行は食品の種類や使用温度、接触時間などの影響を受けるため、食品接触用途では「どの可塑剤を使うか」だけでなく、「どの条件で使用するか」を含めて総合的に評価することが重要です。

DEHP、ATBC、TOTMにはそれぞれ特徴があり、用途に応じた選定が求められます。また、食品接触用途ではDEHPフリーPVCや、TPEのような可塑剤を使用しない材料も選択肢となります。性能、規制要件、使用条件のバランスを踏まえ、用途に適した材料を選定することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 食品接触用PVCの可塑剤は必ず食品へ移行しますか?

必ず移行するわけではありません。移行量は可塑剤の種類、食品の種類、接触温度、接触時間などの条件によって変化します。特に油脂を多く含む食品との接触では移行しやすくなる傾向があります。

Q2. 可塑剤が移行しやすいのはどのような条件ですか?

油脂を含む食品との接触、高温環境、長時間接触では可塑剤が移行しやすくなる傾向があります。食品接触用途では、食品の種類、温度、接触時間を考慮した評価が重要です。

Q3. 可塑剤の移行を抑えるにはどうすればよいですか?

一般に、低移行性の可塑剤を選定することに加え、食品の種類、使用温度、接触時間を考慮した材料設計と移行評価が重要です。

Q4. DEHPフリーPVCなら食品接触用途に使用できますか?

DEHPを使用していないことだけで適合性が決まるわけではありません。可塑剤以外の添加剤を含む配合全体や、対象市場の規制、移行特性を確認する必要があります。

Q5. TPEはPVCの代替材料になりますか?

TPEは可塑剤フリーの材料設計も可能な柔軟材料であり、食品接触用途ではPVCの代替候補として検討されることがあります。材料選定では、要求性能や規制要件を踏まえて評価することが重要です。

導入の際の注意点

・食品接触用途の規制対応には、市場ごとの基準理解と、社内サプライチェーンにおける正確な情報伝達が不可欠です。各国・各地域の食品接触材料規制は頻繁に改定されるため、導入時には必ず最新の公的情報・ガイドラインをご確認ください。

・三菱ケミカルはコンパウンドメーカーとして、各種原料メーカーへの調査を通じて製品の適合状況を確認し、最新の各国規制状況を踏まえた回答やグレード提案を行っています。ただし、規制や解釈は今後も変更される可能性があるため、具体的な規制確認やグレード選定については、その都度、営業担当まで個別にお問い合わせください。

・コンパウンド製品の性質上、配合構成や使用原料の確認には一定のお時間を要する場合があります。各国規制への対応状況の照会・回答にあたっては、事前に十分なリードタイムをいただけますよう、ご理解をお願いいたします。

三菱ケミカルでは、各種食品接触材料に関するサンプル提供・技術相談を承っております。

用途に応じて最適なグレードをご提案しますので、お気軽にお問い合わせください。

参考URL

[1] Commission Regulation (EU) 2023/1442 amending Regulation (EU) No 10/2011 on plastic materials and articles intended to come into contact with food
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1442/oj

[2] ECHA: REACH Regulation Annex XVII (Restriction List Overview)
https://echa.europa.eu/documents/10162/aaa92146-a005-1dc2-debe-93c80b57c5ee

[3] 消費者庁:食品接触材料におけるフタル酸エステルの取扱い
https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fssc_cms101_250626_05.pdf

[4] NHC: GB 9685 – Standard for Uses of Additives in Food Contact Materials
https://www.chinesestandard.net/PDF-EN/GB9685-2016EN-P18P-H15106H-760516.pdf

[5] TFDA: Regulations on the Labeling of Food Utensils, Food Containers, or Packaging
https://www.fda.gov.tw/eng/lawContent.aspx?cid=16&id=3090


[6] FSSAI: Food Safety and Standards (Packaging) Regulations, 2018 (Amendments)
https://fssai.gov.in/cms/amendment-fss-packaging.php

[7] Trends in Food Science & Technology, Vol. 17, No. 3, pp.105–112 (2006)

稲垣 舞
稲垣 舞
所属: Electronics & Packaging Marketing Department Global Planning Division Polymers Compound Business Group 経歴:ポリマー材料の研究開発に11年間従事し、主に食品包装・食品接触用途向けの材料開発を担当。ポリマー設計およびコンパウンド開発を通じて、軟包装からリジッド包装まで幅広い用途を経験。現在は食品分野向け材料のマーケティングを担当し、新規市場開拓や用途開発に取り組む。

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