
食品接触材料の最新規制動向とエラストマー:日本・米国・EU・中国を一気に整理
食品接触材料は各国で厳格に規制されており、特に日本の新ポジティブリスト制度(2025年6月完全施行)により、モノマー単位での管理が必須となりました。本ガイドは、日本・米国・EU・中国の4か国規制体系を比較し、各規制の要件について解説をします。スチレン系熱可塑性エラストマー「Tefabloc™」を中心とした三菱ケミカルの製品ラインナップを解説します。
目次[非表示]
食品接触エラストマーの役割と規制環境
食品製造・流通における接触材料(ボトルキャップ、パッキン、シール材、ホース等)は、食品の品質維持と衛生管理の最前線にあります。特にエラストマー材料は、柔軟性と耐久性を兼ね備え、動的シール性能が求められる部位に不可欠です。
しかし、素材メーカーから最終製品メーカーへの原料供給には、複雑な国際規制対応が必須です。日本、米国、欧州、中国—各市場で求められる適合基準は異なり、一つの製品が全市場対応とは限りません。本記事では、素材メーカーの立場から、食品接触エラストマーの現状と選択基準を解説します。
各国食品接触規制の現状比較表
以下の表は日本、米国FDA、欧州EU-PIM、中国GBなど、各国の規制体系を整理したものです。
項目 | 日本 | 米国 | 欧州連合(EU) | 中国 |
主な規制の枠組み | 食品衛生法に基づく食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度 | 連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C Act)および21 CFR等に基づく食品接触物質規制 | 規則(EC)No 1935/2004およびプラスチック規則(EU)No 10/2011 | 食品接触材料に関する国家食品安全規格(例:GB 4806、GB 9685) |
規制アプローチ | 基材樹脂および添加剤を対象とするポジティブリスト方式 | 使用する各食品接触物質について、該当する規制、食品接触物質届出(FCN)または適用除外の有無を確認 | 認可物質のユニオンリストを基本とするポジティブリスト方式 | 基材樹脂、添加剤等を対象とするポジティブリスト方式 |
主な制限・要求事項 | 用途、使用温度、食品区分等に応じた使用条件および添加剤の使用量制限を確認 | 使用条件、食品区分、接触条件および物質ごとの規制上の適用範囲を確認 | 物質ごとの特定移行限度(SML)、全体移行限度(OML)および使用条件を確認 | 物質ごとの特定移行限度(SML)、使用範囲および添加剤の使用量制限を確認 |
適合確認の主体 | サプライチェーン上の各事業者が、自らの責任範囲における適合性を確認 | 最終製品の製造・販売事業者が、意図する食品接触用途に対する適合性を確認 | サプライチェーン上の各事業者が責任範囲の適合性を確認し、最終製品段階まで情報を伝達。小売段階を除き適合宣言書(DoC)が必要 | 最終製品の製造・販売事業者が、意図する食品接触用途に対する適合性を確認 |
原材料メーカーに求められる対応 | 基材樹脂・添加剤の収載状況、用途条件および使用量制限に関する情報を提供 | 原材料の規制上の根拠、対象となる使用条件および制限事項に関する情報を提供 | ユニオンリスト収載状況、SML・その他制限、使用条件、DoC作成を支援する情報を提供 | ポジティブリスト収載状況、使用条件および添加剤の使用量制限に関する情報を提供 |
日本:国のポジティブリスト制定とJCII自主基準
日本では2025年6月1日にポジティブリスト制度が完全施行されました。基材ポリマーはモノマー単位で、添加剤は物質ごとに収載状況を判定します。
日本のポジティブリストは、収載された物質のみが使用が認められる基準であり、最終製品の製造者が自ら責任を持って適合性を判断する制度となっています。
また、日本では国のポジティブリストが制定される前からJCII(食品接触材料安全センター:旧三衛協)が業界の自主基準に基づくポジティブリストを作成・運用してきました。自主基準に適合する場合は申請に応じて確認証明書を発行しており、その証明書が安全性保証の事実上の基盤として広く運用されてきたという経緯があります。国のポジティブリスト制度導入後、JCIIも自主基準ポジティブリストを見直し、国の制度との整合を図る形で再構築を進めています。現在もJCIIの自主基準は日本国内で食品接触材料の適合性を判断する上で有効な手段の一つとなっています。
米国:FDAによる規制
米国の食品接触材料に関するポジティブリストはFDA(Food and Drug Administration)の管轄下にあり、Title 21 CFRにおいてセクションごとに定義されています。食品接触物質を規制するのはこの中の食品添加物に関するパート(特に Part 170〜189)となります。
温度条件や用途区分なども細かく規定されているため、使用する材料が対象食品に適合しているかどうかは、複数の条件を組み合わせて判断する必要があります。
また、安全性データを当局へ提出し個別に認可を得るFCN制度も存在します。近年は要求される安全性データが厳格化しており、取得難度は上昇傾向にあります。
欧州(EU):適合宣言書と移行試験の必要性
EUの食品接触材料に関するポジティブリスト(Union List)はRegulation (EU) No 10/2011(Plastic Regulation)で定義されています。Union Listに収載ではないものは原則として使用禁止ですが、NIAS(Non-Intentionally Added Substances:非意図的添加物)や不純物、反応生成物などは個別に安全性評価を行うことを前提として例外的に使用が認められています。
適合宣言書(Declaration of Compliance:DoC)の作成は最終製品メーカーの責任ですが、原料メーカーはSML(特定移行量制限)やQM(含有量制限)など、DoC作成に必要となる情報を提供する義務があります。
DoC作成にあたっては移行試験の実施が必須とされており、最終製品の製造者が試験を行った上でDoCを作成する必要があります。また、ポジティブリストが頻繁に改訂されるため、最新情報の定期的な収集が重要です。
中国:国家標準による規制
中国の食品接触材料に関するポジティブリストはGB4806およびGB9685で定義されています。材料区分ごとに細かく標準が分かれており、プラスチックはGB4806.7、添加剤はGB9685に位置付けられています。
添加剤には基材ごとの使用量制限が設けられているほか、物質ごとにSML(特定移行量制限)なども設定されています。これらの適合性は、最終製品の製造者が移行試験により確認する必要があります。
食品エラストマーラインナップ
Tefabloc™の特徴と用途

特徴:
• 硬度レンジ:デュロ硬度A 15程度から高硬度(曲げ弾性率500MPa)まで
• 優れたゴム弾性と耐候性・耐熱性
• 汎用成形機での加工が容易;スプルー・ランナーのリサイクル可
• 食品衛生性対応グレードをラインナップ
用途例:
• 飲料送液用チューブ/ホース
• まな板、包丁グリップなどのキッチンツール
• ボトルキャップ・パッキン・シール材
• 食品搬送ベルト
• デンタルケア商品(歯ブラシ、歯間ブラシ)
• 歯科、消化器向け医療機器
グレード早見表
食品接触用途の材料選定では、食品の種類、接触温度、接触時間、製品形状、加工方法および適用地域の規制要件を総合的に確認する必要があります。本表では、食品接触用途を想定した熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系エラストマーの代表グレードについて、推奨加工方法、硬さ・弾性率、外観、および日本の食品接触材料ポジティブリスト制度への適合状況を整理しています。
油性食品への使用可否は、特に温度条件によって要求事項が異なるため、用途に応じたグレード選定が重要です。最終製品としての適合性は、材料グレードだけでなく、添加剤、色材、加工条件、最終製品の形状、食品との接触条件および適用法規に基づいて個別に確認してください。
材料種/ グレード | 推奨成形方法 | デュロメータ硬さA | 曲げ弾性率(MPa) | 外観 | 特記事項 | 日本のPL制度 | 油性食品以外 | 油性食品:100°C以下 | 油性食品:100°C超 |
TPS/ ME5309C | 押出成形 | 55 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ ME5302C | 押出成形 | 60 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ ME6301C | 押出成形 | 65 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MP7204C | 押出成形 | 70 | ― | 透明 | 高透明性、軟化剤フリー | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MP8202C | 押出成形 | 80 | ― | 透明 | 高透明性、軟化剤フリー | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MJ4300C | 射出成形 | 38 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MJ5302C | 射出成形 | 46 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MJ6301C | 射出成形 | 52 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MJ7301C | 射出成形 | 66 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ MJ8301C | 射出成形 | 76 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS /MJ9301C | 射出成形 | 84 | ― | 半透明 | ― | 適合 | 対応 | ― | ― |
TPS/ OC-19(開発品) | 射出成形 | 92 | ― | 乳白色 | 油性食品用途向け | 適合 | 対応 | 対応 | ― |
TPO/ TX504N | 射出成形 | ― | 530 | 半透明 | オレフィン系、油性食品用途向け | 適合 | 対応 | 対応 | 対応 |
※日本の食品接触材料ポジティブリスト制度は、2025年6月1日に施行された制度を指します。
※370号試験は、厚生省告示第370号に基づく、ポリエチレンおよびポリプロピレンを主成分とする合成樹脂製の器具・容器包装に関する規格試験です。
※本表の情報は作成時点における代表的な情報であり、製品仕様または法規制への最終的な適合を保証するものではありません。食品接触用途への適用に際しては、対象地域の最新規制、使用条件、最終製品の構成および必要な試験要件を確認してください。
グレード紹介
三菱ケミカルの食品接触用Tefabloc™は、用途に応じて大きく以下の三つのカテゴリーに分類されます。
・チューブやホースなどの成形に適した押出成形グレード(ME/MPシリーズ)
・キャップライナーやパッキンなどに適した射出成形グレード(MJシリーズ)
・油脂分を多く含む食品用途に対応した油性食品対応グレード
推奨グレード:
・軟質で高い柔軟性が求められる用途:MJ4300C および ME5309C
・透明性を重視する用途:MP7204C および MP8202C
・ 低溶出(軟化剤フリー):MP7204C および MP8202C
用途ごとの主な適合シリーズ:
・キャップライナーやパッキンなど射出成形用途:MJシリーズ
・飲料送液用チューブやホースなど押出成形用途:MEシリーズ および MPシリーズ
・油性食品との接触が想定される用途:油性食品対応グレードとしてTX504N および OC-19(開発品)をご検討いただくことをおすすめします。
各国対応状況:
・日本国内:食品衛生法に基づくポジティブリスト制度への適合確認済みグレードは、上記リストに記載されたものとなります。
・日本以外(米国FDA、欧州EU-PIM、中国GB等):各国規制との整合性確認のため、使用原料ごとに個別調査が必要です。 海外での食品接触用途をご検討の場合は、お手数ですが個別にお問い合わせください。
導入の際の注意点
・食品接触エラストマーの規制対応には、市場ごとの基準理解と、社内サプライチェーンにおける正確な情報伝達が不可欠です。各国・各地域の食品接触材料規制は頻繁に改定されるため、導入時には必ず最新の公的情報・ガイドラインをご確認ください。
・三菱ケミカルはコンパウンドメーカーとして、各種原料メーカーへの調査を通じて製品の適合状況を確認し、最新の各国規制状況を踏まえた回答やグレード提案を行っています。ただし、規制や解釈は今後も変更される可能性があるため、具体的な規制確認やグレード選定については、その都度、営業担当まで個別にお問い合わせください。
・コンパウンド製品の性質上、配合構成や使用原料の確認には一定のお時間を要する場合があります。各国規制への対応状況の照会・回答にあたっては、事前に十分なリードタイムをいただけますよう、ご理解をお願いいたします。
・本記事の内容は、公開情報および当社が入手した市場・規制情報をもとに作成した一般的な解説であり、特定製品・用途に対する適合性や法令遵守を保証するものではありません。本文に基づくお客様の判断・行為の結果について、当社は一切の責任を負いかねます。実際の適用に際しては、必ず最新の法令・規格・公的ガイドラインをご確認のうえ、自社の責任において評価・判断を行っていただけるようお願い申し上げます。
参考URL
- 消費者庁「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年6月以降)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new - JCII「食品接触材料安全センター」
https://www.jcii.or.jp/pages/65/ - U.S. Government Publishing Office, “Title 21 – Food and Drugs, Vol.3(Parts 170–199 を収載。174–178を含む)”
https://www.govinfo.gov/content/pkg/CFR-2023-title21-vol3/pdf/CFR-2023-title21-vol3.pdf - European Commission, “Commission Regulation (EU) No 10/2011 on plastic materials and articles intended to come into contact with food”
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/?uri=CELEX:32011R0010 - 中華人民共和国国家衛生健康委員会(NHC)『食品安全国家標準 食品接触材料及び製品通用安全要求』(GB 4806.1-2016)等53項食品安全国家標準の公布公告(2016年第15号)
https://www.nhc.gov.cn/wjw/c100175/201611/f2cf66762b054f7b87b26da7a620533c.shtml



