
食品接触用途におけるPVC(ポリ塩化ビニル)の動向と代替樹脂
食品接触用途において、PVCは長年にわたり、柔軟性、密封性、加工性のバランスに優れた材料として使われてきました。一方で近年は、各国での規制強化や輸出先ごとの要求、用途に応じた設計見直しの流れを背景に、PVCを前提とした材料選定を再検討する動きが広がっています。特に可塑剤を用いる軟質PVCは、性能を出しやすい反面、移行や規制適合の面で検討事項が増えやすくなっています。
食品接触用途におけるPVCの位置づけ
PVCは食品包装用フィルムに限らず、シール材やキャップライナーを中心に、 食品接触の軟質部材に広く使用されてきました。
また、地域や用途によっては、ガスケットやチューブ・ホースなどにも採用されています。
これらの用途では、単なる柔軟性だけでなく、密封性、圧縮回復性、加工安定性、量産適性が求められます。
PVCはこれらをバランスよく満たす材料として活用されてきましたが、近年では用途条件や品質要求、規制動向の変化に伴い、従来の設計の在り方について見直しの必要性が指摘されつつあります。

食品接触用途におけるPVC使用の主な懸念
PVCは優れた材料である一方で、近年では用途に応じて設計上の検討対象となる場面が増えています。
ここでは、主に「低分子成分の移行」と「食品との相互作用」に分けて整理します。
いずれも、食品接触材料としての適合性を考えるうえで重要な観点です 。
低分子成分の移行(migration)と規制適合性
軟質PVCでは、柔軟性を出すために可塑剤を用いる設計が一般的です。
しかし、可塑剤のような低分子成分は食品側へ移行しやすく、食品接触材料としての規制適合性を考える上で重要な検討要素となります。
近年、食品接触材料に関する規制は世界的に高度化しており、物質の使用可否に加え、物質ごとの特定移行量制限(SML)や使用条件を含めた評価が求められる傾向にあります。
こうした規制の考え方は地域ごとにアプローチが異なるものの、いずれも移行特性と使用条件に基づく安全性評価が重視されている点は共通しています。
特にDEHP(フタル酸ジ(2-エチルヘキシル))などのフタル酸エステルは、移行特性や安全性の観点から評価対象となることが多く、材料設計や規制対応において重要な検討項目とされています。
以下に、各国規制の枠組みとPVC・可塑剤への影響を整理します。
地域 | 規制枠組み | 主な要求事項 | PVC/可塑剤への影響 |
EU | 規則(EU)No.10/2011[1] | ・認可物質に対する特定移行量制限(SML) | フタル酸の移行および含有の両面で厳しく管理されており、低移行材料への代替が進む要因となっている |
日本 | 食品衛生法/ポジティブリスト制度[3] | ・ポジティブリストによる物質管理 | 可塑剤の使用可否は収載状況に依存し、用途によっては制限されるため、収載内容に基づく材料選定が必要 |
中国 | GB 4806シリーズ | ・物質ごとのSML ・最大使用量および使用条件の規定 | 可塑剤は添加剤として管理されており、使用条件と移行特性の双方について適合性確認が求められる |
台湾 | 食品安全衛生管理法[5] | ・用途に応じた使用制限 | 用途条件によりPVCの使用が制限される場合があり、特に油脂食品用途では可塑剤の移行リスクを考慮する必要がある |
インド | 食品安全基準(包装)規則 2018[6] | ・物質ごとのSML ・一般的な安全性および使用要件 | 移行量に基づく評価が重視されており、可塑剤はOMLおよびSMLへの適合が求められ、材料設計や配合選定に影響を与える |
食品との相互作用による品質影響
PVCの課題は安全性だけではありません。
食品との相互作用によって、臭い移り、味移り、見た目の変化が生じる可能性があります 。
特に軟質PVCでは柔軟性を付与するために可塑剤が配合されており、その含有量は一般的に20~40 wt%程度と比較的高いことが特徴です。このため油脂性食品では、包装材中の可塑剤や添加剤が移行しやすくなります。また、食品中の油分や香気成分が材料側に吸収されることで、材料の性質が変化することもあります。
例えば、PVCガスケットを用いた食品容器の研究では、可塑剤が接触面だけでなく材料内部からも拡散して食品へ移行することが報告されています。このような挙動はフタル酸エステルに限らず、他の可塑剤でも見られる可能性があり、実際の移行量は接触面だけを前提にした想定を上回ることがあり、油脂やペースト状食品では影響がより明確になることがあります。 [7]

PVC代替の考え方
PVCが食品接触用途で長く使われてきたのは、柔軟性、密封性、成形性、コストのバランスに優れていたためです。
ただし、軟質PVCは可塑剤に依存した柔軟性設計であるため、移行や規制適合の面で確認事項が増えやすくなります。
そのため、PVC代替を考える際は、単に材料名を置き換えるのではなく、どの機能をどの材料で担うかという視点で再整理することが重要です。
可塑剤変更では解決しにくい理由
可塑剤の変更は、同じPVCを使い続けられるように見える一方で、低分子成分である以上、移行の議論は残ります。食品接触用途では規制や品質の面で根本的な解決にならないことがあります。
そのため用途条件によっては、材料の考え方そのものを見直した方が合理的な場合があります。
製品設計から見直す
PVC代替は、単一材料の置き換えというよりも、包装や部材の機能分担を再設計するアプローチに近い側面があります。シール部、接触部材、フィルムなど、それぞれに求められる性能を整理し、必要な部位に適した材料を配置することが重要です。
PVC代替は材料選定と製品設計を一体で進める必要があります。
エラストマーによる代替アプローチと実装
こうした課題に対して、有力なアプローチの一つがエラストマー(TPE)です。TPEは、ポリマー構造そのもので柔軟性を発現できるため、可塑剤に強く依存しない設計が可能です。
その結果、食品接触用途で重要となる移行や規制適合の観点を、材料設計の中で整理しやすい特徴があります。
Tefabloc™による軟質部材設計
なかでもTefabloc™TPSは、食品接触用途に対応したTPEとして、柔軟性・加工性・用途適合のバランスを取りやすい材料です。
適用しやすい領域としては、パッキン・シール部、ガスケット、チューブ・ホース、クロージャー周辺部などが挙げられます。
PVCの可塑剤依存設計を見直したい場合に、候補の一つとして比較しやすい材料です 。
食品衛生対応として、日本のポジティブリスト制度に加えて、米国FDAおよび欧州EU(PIM)に対応したグレードも展開しております。
実装に向けた設計の考え方
PVC代替は、単一材料への置き換えだけで完結するとは限りません。用途によっては、構造や周辺材料を含めた設計検討が必要になります。
密封性と強度のバランス、接触部材と構造部材の役割分担、多層構成や接着設計などを含めて考えることで、性能と規制適合の両立を図りやすくなります 。
三菱ケミカルでは、Tefabloc™を軟質部材の選択肢の一つとして、用途条件や規制要件を踏まえた材料・構造設計を支援しています。
単なる材料選定ではなく、実際に機能する構成として成立させることが重要です 。
導入の際の注意点
・食品接触用途の規制対応には、市場ごとの基準理解と、社内サプライチェーンにおける正確な情報伝達が不可欠です。各国・各地域の食品接触材料規制は頻繁に改定されるため、導入時には必ず最新の公的情報・ガイドラインをご確認ください。
・三菱ケミカルはコンパウンドメーカーとして、各種原料メーカーへの調査を通じて製品の適合状況を確認し、最新の各国規制状況を踏まえた回答やグレード提案を行っています。ただし、規制や解釈は今後も変更される可能性があるため、具体的な規制確認やグレード選定については、その都度、営業担当まで個別にお問い合わせください。
・コンパウンド製品の性質上、配合構成や使用原料の確認には一定のお時間を要する場合があります。各国規制への対応状況の照会・回答にあたっては、事前に十分なリードタイムをいただけますよう、ご理解をお願いいたします。
三菱ケミカルでは、各種食品接触材料に関するサンプル提供・技術相談を承っております。
用途に応じて最適なグレードをご提案しますので、お気軽にお問い合わせください。
参考URL
[1] Commission Regulation (EU) 2023/1442 amending Regulation (EU) No 10/2011 on plastic materials and articles intended to come into contact with food
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1442/oj
[2] ECHA: REACH Regulation Annex XVII (Restriction List Overview)
https://echa.europa.eu/documents/10162/aaa92146-a005-1dc2-debe-93c80b57c5ee
[3] 消費者庁:食品接触材料におけるフタル酸エステルの取扱い
https://www.caa.go.jp/policies/council/fssc/meeting_materials/assets/fssc_cms101_250626_05.pdf
[4] NHC: GB 9685 – Standard for Uses of Additives in Food Contact Materials
https://www.chinesestandard.net/PDF-EN/GB9685-2016EN-P18P-H15106H-760516.pdf
[5] TFDA: Regulations on the Labeling of Food Utensils, Food Containers, or Packaging
https://www.fda.gov.tw/eng/lawContent.aspx?cid=16&id=3090
[6] FSSAI: Food Safety and Standards (Packaging) Regulations, 2018 (Amendments)
https://fssai.gov.in/cms/amendment-fss-packaging.php
[7] Trends in Food Science & Technology, Vol. 17, No. 3, pp.105–112 (2006)


