
トライタン™ × エラストマー溶着/二色成型 食品・医療用途でのグレード選択ガイド
欧州を中心としたBPA規制強化により、透明樹脂の代表格ポリカーボネート(PC)から、BPAフリーのトライタン™への材料転換が進んでいます。本記事では、トライタン™単体では課題となるグリップ性やシール性を、二色成形による「溶着可能エラストマー」で高機能化する技術を解説。三菱ケミカルが開発したトライタン™と溶着するエラストマー についての解説、グレード選定ガイドを提供します。BPA規制対応と高付加価値製品開発の両立を目指す材料エンジニア必読の技術情報です。
市場で評価されるトライタン™の特徴
材料特性と「PC代替」としての位置づけ
トライタン™(Eastman Tritan™)は、イーストマンケミカル社が開発したアモルファスコポリエステル樹脂です。ガラス代替素材として食品・医療分野を中心に採用が広がっています。
トライタン™は次のような特徴は以下の通りです。
• 高い透明性:光線透過率90%以上、ヘイズが低く、ガラスに近い外観。
• 耐衝撃性:ポリカーボネート(PC)と同等クラスの高い耐衝撃性を持ち、落下などに対する割れにくさが評価されている。
• 化学耐性:食洗機の高温・洗浄剤条件に耐える化学耐性、120℃程度まで利用できる耐熱性があるとされており、繰り返し使用するボトルや容器に適している。
このような特性から、透明で割れにくく、繰り返し使用できるプラスチックとして、PCに代わる候補材料の一つとして位置づけられています。
欧州を中心としたBPA規制とトライタン™採用拡大の背景
ポリカーボネート(PC)は、長年、透明で耐衝撃性に優れた食品容器・ボトル、また医療機器における透明硬質樹脂の代表的材料でしたが、その原料であるビスフェノールA(BPA)の内分泌かく乱作用などが懸念され、欧州を中心に規制が強化されてきました。欧州ではすでに乳児用哺乳瓶などへのBPA使用が禁止されており、2018年には食品接触材料からのBPAの移行限界値が大幅に引き下げられました。
さらに、2024年採択・2025年発効の規則(EU)2024/3190により、食品接触材料におけるBPAおよび他のビスフェノール類の使用が原則禁止とされ、PCを食品接触用途に用いることは、厳しい環境になってきています。
こうした規制強化を受け、欧州を中心に「BPAフリー」「PC代替」をキーワードとした素材転換が進んでおり、その一つの選択肢としてトライタン™が取り上げられているケースが増えています。
食品・医療用途での採用が進む理由
各種解説記事やメーカー情報では、トライタン™が食品・医療分野で選ばれる理由として、次のような点が挙げられています。
• BPAやBPSなどのビスフェノール類を含まない樹脂として設計されていること。
• FDA、EFSA等の食品接触規制に適合し、哺乳瓶や子ども向けボトルなど安全性を重視する用途に採用されていること。
• ガラスのような外観と、落としても割れにくい耐衝撃性を両立していること。
• 医療機器によるBPA曝露は、(血液透析患者などの継続治療の場合を除き)一般的に限られた期間に限られるため、る医療分野ではBPA明確に規制されていないが、影響の大きい乳幼児向けの医療機器などで、代替素材が推奨されているため、検討されるケース
このように「BPA規制の強化」による「PCからの材料転換ニーズ」が欧州を中心に高まる中で、トライタン™は透明性・耐衝撃性・BPAフリーという特性を持つ候補材として注目されていると推測されます。
トライタン™樹脂との二色成形:高機能化をもたらす"溶着可能"エラストマー
二色成形(2K成形)による高機能化のイメージ
トライタン™単体でボトルや容器を成形した場合、透明性や耐衝撃性は十分でも、実際の製品設計では「滑りやすい」「シール部が別部品になりコストがかかる」「医療用途では接着剤が使いにくい」といった課題が挙げられることがあります。こうした課題に対して、トライタン™樹脂と"溶着可能"なエラストマーを二色成形で組み合わせ、高機能化するアプローチが注目されています。
トライタン™は透明性と耐薬品性に優れたアモルファスコポリエステル樹脂であり、食品容器や医療機器向けに採用が進んでいます。
三菱ケミカルのテファブロック™ TPCは、このトライタン™など極性樹脂との二色成型・溶着用途に向けて設計されたポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、適切な成型条件下で高い融着強度と良好な外観が得られます。このため、トライタン™ボトルへのソフトグリップ一体成形や、医療機器ハウジングへのシール材一体成形などにおいて、追加の接着剤やプライマーを用いずに、すべりにくさ・握りやすさ・シール性を付与できます。
• グリップ性向上:ソフトタッチ、滑り止めに
• 液漏れ防止:シール一体化(ガスケットレス設計)による、ユーザビリティの向上
• 底部バンパー:耐衝撃・防音性向上
• 溶出物の低減:接着剤レス構造により、接着剤由来の溶出物リスクの低減。医療機器のISO10993等の生物安全性試験や、薬局方の溶出試験など、医療や食品容器などの安全性が求められる用途で求められる。
溶着メカニズムの詳細
二色成形における詳しい溶着メカニズム(表面近傍分子の流動・拡散・絡み合い)や、Tefabloc ™、TPCが溶着可能な樹脂の種類については、三菱ケミカルの技術記事で詳しく解説しています。
・接着剤による「界面に別の材料を挟む接合」と異なり、樹脂同士が直接結合した「溶着」状態になるため、シール性・耐久性・外観信頼性に優れた接合が得られます。
・二色成型以外にも、レーザー溶着、超音波振動溶着などの後加工による、溶着方法も選択いただけます。
・「トライタン™×溶着可能エラストマー」という組み合わせにより、高機能・高付加価値な製品設計が可能になります。
食品容器/医療機器で推奨するグレード
三菱ケミカルの評価結果では、以下のTefabloc ™、Zelas™の3グレードがトライタン™との溶着が可能なエラストマーとして、社内評価にて確認されています。記載のグレード以外にも、硬度違いのエラストマーを選定できる可能性がございます。詳しくは、お問い合わせからご相談ください。
左線見出し
Tefabloc™およびZelas™には、加工方法、透明性、硬さ、機械特性、熱融着性および用途要求に応じて選定できる複数のグレードがあります。
下表では、TPC標準グレードであるTefabloc™ A1600N、TPC透明グレードであるTefabloc™ A1606C、および医療用途向けエラストマーであるZelas™ MC719について、代表的な基本物性とTritan™との融着強度を比較しています。
A1600NおよびA1606Cは、高い切断時伸びとTritan™に対する融着強度を示しており、一般産業用途や食品包装用途における多層構成・複合部材の検討に適しています。Zelas™ MC719は、低密度と高い引張応力を特長とし、医療機器および医薬品包装用途を想定した材料選択肢です。実際のグレード選定では、最終製品の要求性能、成形条件、相手材、滅菌・使用環境ならびに規制要件を総合的に確認してください。
項目 | 試験方法 | 単位 | Tefabloc™ A1600N | Tefabloc™ A1606C | Zelas™ MC719 |
|---|---|---|---|---|---|
製品タイプ | ― | ― | TPC標準グレード | TPC透明グレード | 医療用途向け エラストマー |
メルトマスフローレート(230°C、21.2 N) | ISO 1133参照 | g/10 min | 5 | 4 | 3 |
密度 | ISO 1183参照 | g/cm³ | 1.00 | 1.00 | 0.89 |
デュロメータ硬さA | ISO 7619-1参照 | ― | 67 | 68 | 75 |
切断時引張応力 | ISO 37参照 | MPa | 8 | 7 | 10 |
切断時伸び | ISO 37参照 | % | 930 | 880 | 880 |
融着強度(Tritan™との接合)* | 三菱ケミカル法 | N/25 mm | 190 | 181 | 53 |
外観 | ― | ― | 乳白色 | 半透明 | 半透明 |
日本の食品接触材料ポジティブリスト制度への適合状況** | ― | ― | 適合 | 適合 | 対象外 |
主な想定用途 | ― | ― | 一般産業用途、食品包装用途 | 一般産業用途、食品包装用途 | 医療機器、医薬品包装用途 |
*融着強度は、Tritan™ TX100Nとの接合強度を評価した代表値です。三菱ケミカル法により、90°ピール試験(引張速度:200 mm/min、試験片幅:25 mm)を実施しました。サンプル作製条件:基材としてTritan™ TX100N射出成形板(厚さ2 mm)を用い、その上に各材料を厚さ2 mmで射出成形し、二層試験片を作製しています。
**「適合」は、日本の食品接触材料ポジティブリスト制度に関する情報を示します。最終製品としての適合性は、最終用途、食品区分、使用温度・時間、色材・添加剤、製品構成および最新の法規制に基づき、個別に確認してください。
※本表の数値は代表値であり、保証値ではありません。物性および融着強度は、成形条件、試験方法、試験片形状、相手材、表面状態、接合条件および使用環境によって異なります。
食品・一般用途向け:Tefabloc ™TPC
Tefabloc ™TPCのAシリーズは、PCやABSなどの硬質の極性樹脂との熱溶着性能に優れており、電子機器(カメラ、ゲーム)等のグリップ、歯ブラシグリップ、スイミングゴーグル、デンタルケア製品等に長年の採用実績がある素材になります。
Tefabloc™ A1600N:デュロ硬度67の柔軟性と142 N/25mmの優れた溶着強度を兼ね備えたバランス型グレードです。日本の食品用器具・容器包装ポジティブリスト制度に適合し、タンブラーの持ち手やマグボトルの滑り止め、食品容器の蓋シールなど、触感と密封性の両立が求められる部位に最適です。乳白色の外観は、シンプルで洗練された製品デザインに調和します。
推奨用途: タンブラー、スープ容器、マグボトル、グリップ部品、防滑底パッド、シール部品、育児用品
Tefabloc™ A1606C:高い溶着強度(161 N/25mm)を実現しながら、透明~半透明の優れた光学特性を維持するグレードです。日本の食品用器具・容器包装ポジティブリスト制度に適合し、透明タンブラーの指かけ部や、ワイングラス型容器の装飾リングなど、「見せる」ソフトパーツとしてのデザイン価値を高めたい場合に適しています。PCからトライタン™への容器切り替え時における高機能化に対応した設計です。
推奨用途: 透明タンブラー、高級食品容器、透明性を重視する製品
医療機器用途向け:医療用コンパウンド Zelas™
Zelas™ MC719: COPやCOCなどの難溶着樹脂との溶着可能に設計されたグレードであり、輸液バック等の医薬品包装分野での実績がある材料となります。社内評価にて、トライタン™との溶着可能なことが確認されています。トライタン™の医療機器パーツとの二色成形により、シール部を接着剤レスで一体化できるため、組立工程の簡略化と溶出物リスクの低減を同時に実現します。
推奨医療用途:トライタン™を用いた医療機器、医薬品包装のパーツ等のパッキン、 輸液・薬液容器、医療検査・診断チップ、Luer医療標準コネクタなど
安全性試験の適合性:ISO10993-5 細胞毒性試験、日本薬局方7.02(溶出物試験121℃、1時間オートクレーブ、灰化試験)
本グレードに関するCOPとの溶着に関する解説記事については、下記をご覧ください。
まとめ・導入に関する注意
・欧州を中心としたBPA規制強化により、ポリカーボネート(PC)からBPAフリーのトライタン™への材料転換が食品・医療分野で加速しています。トライタン™は透明性・耐衝撃性・BPAフリーという特性で、ガラス代替・PC代替として市場で高く評価されています。しかし、完全な製品機能化には、トライタン™樹脂と"溶着可能"なエラストマーを二色成形で組み合わせた高機能化が有効です。
・グレード選定、溶着条件最適化などの質問、サンプル依頼については、お気軽にご相談ください。
・食品接触エラストマーの規制対応には、市場ごとの基準理解と、社内サプライチェーンにおける正確な情報伝達が不可欠です。各国・各地域の食品接触材料規制は頻繁に改定されるため、導入時には必ず最新の公的情報・ガイドラインをご確認ください。
・本記事の内容は、公開情報および当社が入手した市場・規制情報をもとに作成した一般的な解説であり、特定製品・用途に対する適合性や法令遵守を保証するものではありません。本文に基づくお客様の判断・行為の結果について、当社は一切の責任を負いかねます。実際の適用に際しては、必ず最新の法令・規格・公的ガイドラインをご確認のうえ、自社の責任において評価・判断を行っていただけるようお願い申し上げます。
参考URL
[1]長瀬産業公式サイト・Eastman Tritan 紹介ページ
URL: https://www.nagase.com/eastman-tritan
[2]長瀬産業公式サイト・Tritan Premium Tableware ページ
URL: https://www.nagase.com/eastman-tritan/eastman-tritan-premium-tableware
BPA規制情報
[3] 「EU bans bisphenol-A in food contact materials」、Lifocolor、2025年3月
https://www.lifocolor.de/en/news-events/bisphenol-a-ban-in-food-contact-materials/
[4] 「Bisphenol A | EFSA」、欧州食品安全機関(EFSA)、2026年1月
https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/bisphenol
[5] 「Bisphenol A: Occurrence in Food and the Risk to Health」、IFST、2024年12月
https://www.ifst.org/resources/information-statements/bisphenol-occurrence-food-and-risk-health
[6] 「The new European Regulation 2024/3190 on Bisphenol A」、BRC、2026年1月
https://brc.org.uk/news-and-events/news/associate-insight/2025/the-new-european-regulation-20243190-on-bisphenol-a/
医療機器の規制情報
[7] SCENIHR「The safety of BPA in medical devices」:
https://health.ec.europa.eu/document/download/4d94b47e-81fb-4d67-9948-4a5cc33230ca_en



