
ロボットハンドの材料選定ガイド
ソフトロボットハンド市場の拡大に伴い、材料選択の重要性が高まっています。
従来のシリコーンゴムやウレタンから熱可塑性エラストマーへのシフトが進む背景と、その実用的なメリットをご紹介します。
ロボットハンドに用いられる材料とは
近年、多様なワーク(つかむ相手)の形状に追従するために、ロボットハンドに柔軟な素材を使用したソフトロボットハンドのニーズが高まってきています。ソフトロボットハンドには主にシリコーンゴム(熱硬化性)や熱硬化性ポリウレタンが用いられてきました。
これらは高い弾性や耐摩耗性など必要物性に応じて選択されてきました。鋳型に流し込んで熱硬化させる製法が一般的ですが、硬化工程が必須となるため生産サイクルが複雑化します。また、再加工やリサイクルが困難という課題があります。その為、最近では熱可塑性エラストマー適用可能性が検討されています。
下の表に、ロボットハンドに使用される各素材の特徴についてまとめました。
各素材には利点欠点がそれぞれあり、すべてを満たすような素材はないので、使用用途やハンド自体の設計、製造プロセスによって選択する素材を適宜決定する必要があります。
【図1;特徴比較】

(注)本表は、一般的な材料特性に基づいた相対的な比較です。 実際の性能は、使用環境、製造条件、評価方法により異なる場合があります。
なぜ今、熱可塑性エラストマーなのか
- シンプルな成形プロセス
熱可塑性エラストマーは「加熱融解→射出成形→冷却固化」の一連工程で完結し、二次硬化を不要とします。これにより生産サイクルを大幅に短縮できます。 - 高い生産性とコスト効率
射出成形機での連続成形と高歩留まりを実現。金型寿命延長と後加工削減により、量産時のタクトタイムと総コストを最適化します。 - 多様なラインナップによる特性制御
Tefabloc™TPSはSJシリーズ(一般工業用)、MJシリーズ(食品接触対応グレード)、特殊シリーズ(高柔軟用)などを擁し、A硬度10~80程度、静摩擦係数0.5~4.5の範囲で硬度・摩擦特性を自在に調整可能です。用途に応じた最適なハンズの把持性能を有すべく、材料のカスタマイズが可能です。
【図2;硬度―摩擦係数】

食品工場向けロボットハンド
食品工場向けロボットハンド市場は2025年に28億米ドル規模に達する見込みです。これは労働力不足と衛生管理強化という2つの課題が、食品業界全体で自動化投資を加速させているためです。
ソフトロボットハンドは食材のピッキングや仕分けを自動化し、高速処理によるライン稼働率向上と、人手接触削減による汚染リスク低減を両立します。また、果実や焼き菓子など形状・硬度の異なる製品も柔軟に把持可能なため、幅広い製造工程で採用が進んでいます。こうしたニーズに対応するには、衛生性や様々な食品への耐久性、また食品工場で必須である消毒液への耐久性を担保しつつ硬度や摩擦特性を自在に制御できる材料が不可欠です。
1. ポジティブリスト制度対応
Tefabloc™TPSの食品接触対応グレードには2025年6月1日施行の改正食品衛生法ポジティブリストに適合するグレードも存在し、食品と直接接触する用途に使用可能です。
2. 優れた次亜塩素酸耐性
ウレタン樹脂は加水分解の影響を受けやすく、素材の劣化を考慮した選定が必要となってきます。食品工場で日常的に使用される次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1%濃度)に30日間浸漬しても、Tefabloc™TPSは物性変化をほとんど起こしません。これにより厳格な消毒サイクルを要する食品現場での交換頻度を大幅に低減できます。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液での各種物性変化は下記資料をご覧ください。
Tefabloc™の特徴
- 異種素材接着性
Tefabloc™の特定のグレードは接着剤なしで他のプラスチックや金属へ強固に接着可能です。Tefabloc™独自の材料組成の配合レシピにより、母材樹脂(PC,PBT,ABSなど)二色成形や多素材インサート成形で複雑形状や一体化構造のロボットハンドを実現します。
2. 優れた耐油性・耐薬品性
Tefabloc™は各種工業油やグリースへの耐性を持っているグレード開発も可能です。食品用油や機械潤滑油に曝露される環境でも、把持性能の劣化を抑制します。
3. 顧客ニーズ、用途に応じたカスタム素材開発
三菱ケミカルのコンパウンド技術を活かし、硬度・摩擦・耐薬品性・摺動特性、また医薬品や半導体に求められるような衛生性、低ガス発生など、個別要件に合わせた配合設計が可能です。
ご質問や技術相談、サンプル評価のご希望がございましたら、下記のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。貴社の用途に最適な材料ソリューションをご提案いたします。


