
「中間水」の力で血液適合性を高めるZelas™ AMPとは?
医療用チューブやカテーテル、透析回路などの血液接触デバイスにおいて、「血栓形成」や「タンパク質吸着」は常に克服すべき課題です。これまで、多くのデバイスでは表面コーティングによる対策が主流でしたが、製造工程の複雑化やコスト、耐久性の面で課題を感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、三菱ケミカルが開発した次世代の抗血栓性熱可塑性エラストマー「Zelas™ AMP」について、その画期的なメカニズムと、医療機器メーカー様にとっての製造メリットを徹底解説します。
目次[非表示]
- 1.Zelas™ AMPとは?
- 2.Zelas™AMPの機能評価
- 2.1.タンパク質吸着の劇的な低減
- 2.2.血小板付着の抑制
- 2.3.細菌付着の抑制
- 3.医療機器メーカーの製造工程を変える!
- 3.1.「プロセス簡略化」の可能性
- 3.2.採用のメリット
- 4.今後の展望と開発状況
- 5.まとめ
- 6.参考文献
Zelas™ AMPとは?
Zelas™ AMPは、両親媒性ポリマー(Amphipathic Polymer)技術を応用した、表面機能を持つ、新しい医療用コンパウンドです。
この両親媒性ポリマー(Zelas™AMPのキーポリマー)は抗血栓性やタンパク質が接着しづらいなどの後述する機能を持っている成形材料専用に開発した素材です。
このキーポリマーを添加した、優れた血液適合性を持つ樹脂コンパウンドをZelas™ AMPと呼んでいます。
なぜ「コーティングなし」で機能するのか
Zelas™AMPのキーポリマーを添加剤としてベース樹脂ブレンドすることで、ベース樹脂に抗血栓性を付与できます。
従来のように医療機器部品の成形後に抗血栓性のコーティングを施すのではなく、材料自体を改質します。
通常の工程同様に「成形するだけ」で血液適合性の高いデバイスを作ることが可能になります1)。
「中間水」×ユニークなポリマー構造
Zelas™ AMPが血栓やタンパク質の付着を防ぐ秘密は、材料表面に形成される「中間水(Intermediate Water)」にあると推測しています。またポリマー構造にも、その特徴があり、優れた表面機能を維持しながら、成形加工性を両立しています。
- 親水部(Hydrophilic Segment): 表面に水分を保持し、生体成分の吸着、変性を抑制します。この親水部が中間水を持つとされるポリマー構造から構成されています。
- 疎水部(Hydrophobic Segment): ベース樹脂(PVCやTPUなど)との相溶性を保ち、成形加工を容易にします。
- 両親媒性ポリマー構造: 親水部と疎水部の両方の性能を保持することで、成形体に血小板やタンパク質の付着を低減する効果を付与することができるキーポリマーとしての利用を可能にします。

このユニークなポリマー構造により、材料表面には「不凍水」でも「自由水」でもない、特殊な中間水の層が形成されます。この水和層がバリアとなり、血小板やタンパク質が材料表面に直接触れることを防ぐと考えられています。九州大学の田中賢教授による中間水コンセプトでは、材料表面に形成される特殊な水分子層が、血小板やタンパク質の吸着を防ぐメカニズムが説明されています2)。

多様な樹脂素材への適用可能性
PVC、TPU、TPO、TPS、PMMAなど、多様なベース樹脂にブレンド可能です。硬度や透明性、引張強度などの物性を維持したまま、抗血栓機能を付与できます。
Note:一部の素材で提供できないケースもあります。またベース樹脂により、社内の関係事業部をご紹介するケースもございます。
Zelas™AMPの機能評価
実際にZelas™ AMPを既存の樹脂(PVC、TPU)に添加した際の性能データをご紹介します。
タンパク質吸着の劇的な低減
通常の軟質PVCと比較した場合、Zelas™ AMPを配合したPVCでは、タンパク質(フィブリノーゲン)の吸着量が約1/5に低減することが確認されました。軟質PVCは可塑剤が異なりますが、DOP、DINCH、TOTMなど幅広い可塑剤種で効果が得られることを確認しています。
また、TPU(熱可塑性ポリウレタン)への添加においても、同様に吸着量が約1/2〜1/6まで減少することを確認しています。
血小板付着の抑制
九州大学田中賢教授3)との共同研究による評価では、ヒト血液に1時間浸漬させた実験において、通常の軟質PVCでは多数の血小板が付着・変形しているのに対し、Zelas™ AMP配合品では血小板の付着がほとんど見られないという結果が得られました。
細菌付着の抑制
社内での細菌付着試験をおこなったところ、 Zelas™ AMP配合品では黄色ブドウ球菌の吸着量が通常の軟質PVCと比べて約1/4まで下がる事が確認されました。タンパク質(フィブリノーゲン)や血小板の低付着性効果に加え、感染症の原因にもなる細菌の付着を抑える事で、よりリスクを抑えた材料提案が可能になると考えます。

医療機器メーカーの製造工程を変える!
「プロセス簡略化」の可能性
Zelas™ AMPを採用する最大のメリットは、血液適合性やその他機能を担保しながら、製造プロセスの簡素化=コストダウンが図れることです。
下の図に代表的な製造ラインの工程イメージを表記します。基材樹脂とコーティングの接着性を高めるために、プライマー処理、塗布、機能性コーティング塗布、乾燥および品質検査の工程などの長いプロセスを要します。

また、医療機器の血液適合性を高めたいが、コーティングに関わるプロセスコストが許容できないという医療機器にぜひ検討していただきたいと考えています。
採用のメリット
• 工程削減: 塗布、乾燥、硬化といった工程が不要になります。
• 品質の安定化: コーティングのムラや剥がれといったリスクを低減し、製品寿命(Product Life)の延長にも寄与の可能性があります。
• Zelas™AMPは合成高分子であり、生物由来成分含有のリスクが低いと考えられます。
今後の展望と開発状況
2027年度の本格的なZelas™AMP塩化ビニル樹脂の市場投入を目指し、Zelas™AMPのキーポリマーの量産化に向けた開発を活発化しています。
また、2025年10月、三菱ケミカルは九州大学および大阪大学と共同研究について発表いたしました。アカデミアとの連携により、実践的な医療現場での安全性と有効性の検証を進めています。
現在、カテーテル、血管アクセスデバイス、透析・輸血用回路などを開発中のメーカー様向けに、開発サンプルの提供が可能です。
▶ リリース記事(リンク先:https://www.mcgc.com/news_release/02443.html)
まとめ
「既存の製造ラインを変更せず、製品の抗血栓性能を上げたい」
「コーティング工程を削減してコストダウンを図りたい」
このような悩みを持つ、開発担当者様は、ぜひ一度Zelas™ AMPをご検討ください。
詳細な物性データの提供、貴社製品への配合の相談など、技術的なご相談も承っておりますので、下記よりご相談ください。
また、Zelas™AMPのコーティング材に興味があるというお客様へは、コーティングのご紹介も可能です。
参考文献
1) 技術情報協会編『タンパク質吸着・界面:メカニズムからアプローチする親水性・抗血栓性・細胞親和性・抗菌性材料の開発』 2024年9月30日発行、437頁、ISBN: 978-4-86798-040-8
※第2章11節「低タンパク質吸着性、血液適合性を持つ医療用コンパウンド」を参照


